開き戸のリスクと問題点
まずは開き戸のリスクと問題点について紹介します。
多くの住宅で開き戸が採用されている理由
多くの日本の住宅では開き戸が採用されています。東京都が平成28年に調査したデータによると、室内扉の76.2%は開き戸となっています。
扉の形状としては、開き戸が圧倒的に多数を占めていることがわかります。
開き戸が多く採用されている理由としては以下のようなものがあります。
断熱性・気密性が高い
遮音性が高い
デザインの自由度が高い
スペースの確保がしやすい
このような理由から開き戸が多く使われています。
ただ、高齢者の住まいとして、必ずしも開き戸が最適解になるわけではありません。デメリットについても紹介します。
開き戸のリスクと問題点
日本の住宅で多く採用される開き戸にも様々な問題点があります。
開閉時のデッドスペースが大きい
開閉時に前後の重心移動が必要になる
ドアの前に物を置けない
扉はその形状によって様々なメリットデメリットがあります。
特に高齢者や介護を必要とする方にとっては開き戸が大きな壁になってしまう場合もあります。
例えばこのような場面、想像できませんか?
外開きの開き戸を引いたときに、後方に体を避けようと思って後ろに一歩足を引こうと思った瞬間にバランスを崩して転倒する
開き戸の扉を押して中に入ろうとしたら、足がすくんで前に出ない。手がドアノブから離れず、そのまま前方に向かって倒れてしまう。
内開きの浴室開き戸。浴室の洗い場が狭く、シャワーチェアも置いているので体を避ける場所がない。
浴室内から外に出るために扉を開けると、扉の開閉でスペースが奪われ、浴室内のスペースが少なくなり、立つ場所がない。
浴室内で介助している家族も一緒に転倒してしまう。
こんな事故を無くすために、扉の変更は非常に有効な手段となっています。
もちろん、折れ戸や引き戸の変更には建物構造上の制約もありますが、転倒を予防するという観点で見た場合、ひとつの有効な解決策となります。
老いてくると次第に足の筋力が弱くなり、つまずいて転びやすくなります。
住まいに扉のバリアフリーが必要な大きな理由は、このように足腰が弱くなった方が家の中で歩行する際、転倒や怪我をする危険性が軽減されるからです。
また、住宅内での車いすの移動においても、扉や床に段差がない方が、スムーズに移動でき車いすに乗られる方の負担が軽減されます。
室内に出入りする扉が押したり引いたりして開閉する開き戸タイプだった場合、高齢になると足が追いつかず挟まってしまうことも懸念されます。
また、車いすでの出入りも開き戸では常時車いすを前後に動かさなければならず、負担を感じるでしょう。
快適な住環境を作るためのバリアフリーにする場合は、開き戸より引き戸がメリットが多いのです。
バリアフリーの引き戸に求められる条件
バリアフリーの概念は1980年代初頭に国連総会で提言されたことをきっかけに世界的に広まり、
日本では2000年代に入ってから各ハウスメーカーで本格的に取り入れるようになりました。
ここからはバリアフリー化を目的として引き戸を導入する際におさえておきたいポイントについてご説明します。
バリアフリーの引き戸は開口幅の広いものを
車いすを使用する場合、車いすの幅は約40cmから約70cmとばらつきがあるため、ある程度間口は広くとらなければなりません。
例えば、一般的なトイレの間口は柱の芯から測って91cmが標準の長さです。
この場合、通常の引き戸を取り付けると「有効開口幅」は約70cmになります。この幅では車いすでの出入りは困難でしょう。
※「有効開口幅」とは扉を全開にした状態で通ることのできる幅のことをいいます。
車いすでスムーズに出入りするために必要な有効開口幅は最低でも91cmだと言われています。
引き戸はできるだけ幅広の物を選ぶようにするとよいでしょう。
バリアフリーの引き戸は枠と床との段差に注意
一般的な洋風の引き戸は主に、溝が彫られた鴨居と、レールのついた敷居、縦枠と引き戸本体によって構成されています。
しかし通常、敷居と床の取り合いは数ミリの段差があります。
ほんの数ミリでも車いすでの移動に負担をかけ、足の弱っている方にとってはつまずく原因にもなってしまいます。
バリアフリー化をするときにはこの引き戸枠と床との段差解消が必要です。
費用を抑えた解決方法は段差と床の間に「への字プレート」を接着・ねじ止めすることです。
これを敷居レールの室内入口側と出口側にそれぞれ取りつければ段差がならだかになり、簡易的なバリアフリーにすることができます。
本格的なバリアフリーを目指すなら、引き戸レールの必要のない
「上吊りタイプの引き戸」にすると床面の段差がなくなるので、歩行や車いすの移動にかかる負担がなくなるでしょう。
しかし、既存の敷居レールのある引き戸を、上吊り引き戸に交換する場合、敷居レールを外すことになります。
その部分には新しい床材を張り込まなければならないため、周囲の床材との色が変わってしまうケースがある点には注意が必要です。
引き戸でバリアフリーを目指すなら清掃性の良いものを
上吊り引き戸のもう1つのメリットは敷居レールがなくなることで、掃除が楽になることです。
敷居レールがあるとそこにごみが入り込み、引き戸の戸車によって押しつぶされてレールにこびりつく汚れになることがあります。
また、引き戸の戸車にごみや抜けた髪の毛が絡みつき、戸車の動きを悪くしたり、車の回転運動ができなくなるケースもあります。
この絡みついたごみを取り除くには、引き戸を外して、戸車がよく見えるように横倒しにして、作業をしなければなりません。
しかし、上吊り引き戸ならがなくなるため、このような清掃の手間もなくなります。
引き戸を選ぶ際には清掃性についても確認しておきましょう。
バリアフリーの引き戸ならケガの危険性が軽減される
開き戸の場合、室内用は基本的に外開きなので、トイレなどのドアを開けた時に、
外にいた家族にぶつかりそうになった経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。
90°の角度で2つの部屋の開き戸が取り付けられている場合、双方同時にドアを開るとぶつかり合うことも考えられます。
また、小さい子どもなどが開き戸の枠に手を置いていてドアに手を挟まれてしまう危険性もあるでしょう。
しかし引き戸であれば、ドア同士がぶつかりあったり、出会い頭で誰かに当たるなどのトラブルをなくすことができます。
「ソフトクローズ機能」が付いている引き戸を選べば、閉まる間際に引き戸の動きがゆっくりになるので、
万が一子どもがドア枠に手を置いていても痛い思いをしなくてすみます。
またこの機能がついている引き戸であれば、力強く戸を閉めてもバウンドすることがなく、衝撃音も押えることができます。
これとは別に「ソフトブレーキ」と呼ばれるものもあります。
「ソフトクローズ機能」のように自動で最後まで閉まるわけではなく、
最後は手で完全に閉める必要がありますが、同じように手を挟むなどの危険性を減らすことができる機能です。
バリアフリーの引き戸なら風で閉まる心配がない
夏場や比較的過ごしやすい季節には、窓を開けて外の風を取り込む方も多いかと思いますが、
風が強いと開け放った開き戸が風の影響で強く閉まり、大きな音を出すことがあります。
これを防ぐにために、ほとんどのドアにはドアストッパーがついてますが、室内の開き戸のドアストッパーは床付けがほとんどです。
しゃがんでストッパーをかけるのは歳を重ねるにつれて負担が増し、面倒に感じられることもあるでしょう。
しかしバリアフリー仕様の上吊り引き戸の場合は、風の勢いを受けて多少の音が出ることはあっても、強く戸が閉まることはありません。
開き具合も少しだけ開けておくなど調整ができるため、風量を調節することもできるでしょう。
バリアフリーの引き戸見落としがちなポイントとは?
バリアフリーにおいてメリットが多い引き戸ですが、デメリットもあります。
最大の欠点は引き戸を引き込むスペースが必要であることです。
そのため、引き戸に交換できる場所に制限を受けてしまう場合があります。
引き戸を多く使用したい場合は、新築で間取りを計画する段階で、事前に設計士に話をしておくことが最も理想的です。
しかし、リフォームの場合は、他の部屋の出入り口や障害となるものを撤去したり移動することを検討しなければならないでしょう。
また、引き戸を取り付ける箇所の壁にはスイッチ類やコンセント等を取り付けることができません。
そのため引き戸へ交換したい箇所の壁に、コンセント等がある場合は撤去しなければなりません。
トイレや洗面所ではタオル掛けが壁に取り付けられないなどの制限を受けることもあります。
そして、上吊りタイプの引き戸の場合、床と引き戸の下端に隙間ができるので、暖気や冷気が部屋から逃げてしまうというデメリットもあります。
また、引き戸には「取っ手」を付けることができない点にも注意しておきましょう。
取っ手は扉から出っ張っているため、扉を開ける際に収納される壁にぶつかってしまうためです。
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